飛行時間
Nyari



 飛行時間

眠れない夜、気持ちがなかなか静まらない時、私はいつも同じ本を開く。

もう何度も読んだはずの本だけれど、もう一度はじめから、時には途中から、ゆっくりと読み返す。

『旅をする木』。

何年も前の誕生日に友達が贈ってくれた本だ。
その本から、幾度となく新しい温もりを受け取っている。
それは何度読んでもいつも新しい温もりだ。

昨日の夜、またその本を開いた。

ずっと昔にはさんだ猫の形をした葉っぱが、からからに乾いている。

数日前にはさんだポインセチアは、まだ少し湿っているかもしれない。

どこで、どう間違えたのか、牛丼50杯が当たるかもしれない引き換え券もまぎれこんでいる。

ページの残りがあとわずかというところで、一行の文章が胸に響く。


「…何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時を、大切にしたい…」


何も生み出すことのない時間。

その時間のなかで、どんな人が、どんな風景が、私を通り過ぎていっただろう。どんな言葉が生まれ、去っていっただろう。

掴む事ができないものならば、せめて紡ぐ事はできないだろうか?

小さな入り口だけがついた、挨拶もないウェブページ。ここで、ほんのつかの間、遠くなっていく時をもう一度旅する事はできないだろうか?

降っていたはずの雪が、いつの間にかやみ、窓の向こうで風車が回っている。今日は風が強いみたいだ。




*旅をする木:文藝春秋、星野道夫著




2004年02月08日(日)
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