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■ 葉のない街路樹
朝目がさめて、カーテンを開けたら、窓の外は真っ白で雪が降っていた。春が、密かに近付いていると思っていた身には、不意打ちのパンチだった。
ああ、またか…
がっかりしながら家で過ごしていると、午後になって突然光がさし雪はどこかに行ってしまった。
出かけよう!
床にふせていて弱々しくなった体に、新しいエネルギーを注ぎこむために暖かく着込んで街に出る。すれ違う誰よりも歩みが遅くても、外の風に吹かれて歩いていくのはとても楽しく幸せだ。
白い息を感じながら、ゆっくり歩いていると鉄骨の廃棄所で教授に出会った。
ツルツル頭に眼鏡をかけて、いつも黒いスーツをきている教授は、体格がいい。外見は、少し怖い感じだ。でも、今日は首に真っ赤なマフラーをして、真剣な面持ちで鉄屑と格闘している。
「ハロー、お元気ですか?」
鉄屑の山から教授が顔をだし、こちらを覗く。
「あれ、君、まだこの街にいたんだね?ハロー」
握手を交わし、短い立ち話をする。教授とは、昨年の秋に彼の授業を訪れて知り合った。言葉のつたない私をバカにするでもなく、特別扱いするでもなく、子供の絵書き歌を教えてくれたりする。
「ところで教授、何をしてるんですか?」
「ん?いろいろね、面白い形を集めてるわけだよ。ほら、こういうのをもっと作ろうと思ってさ。」
ほら、という教授の横には、ガラクタの塔みたいなモビール風のオブジェが立っている。そういえば、この廃棄所の向こうは鋳金工房だった。
よくみれば、それ以外にもいくつものできそこないのロボットみたいのがたっていた。
やがて、次々と教授の知り合いがあらわれて、ドイツ風にいちいち抱き合って挨拶し、教授はすっかり忙しくなってしまった。私は軽い会釈をしてその場を後にし、また通りを歩く。
教授の部屋をはじめて訪れた日の事を思い出した。 緊張で全身の水分が抜け出てしまうのではないかという思いで私がいると、教授はヨーグルトを二つ、持って来た。私はてっきり、それを一つもらえるのかと思っていた。
ところが、彼は円筒型の二つのパックの蓋を両手でめくり、両手の平にアルミの剥がした蓋をもって、右、左と順に、ベロリと蓋のうらについているヨーグルトをなめ落とした。
それから、大きなスプーンで二つのヨーグルトを一人でたいらげ、「それで、用事はなにかな?」と口のまわりを白くして、聞いて来た。私は緊張を通り抜け、唖然として目が点になっていた。
急にその時の事を思い出し、歩きながら笑いが次々こぼれてくる。
もう一度ふりむくと、遠くのほうで赤にかこまれたツルツルの頭が、お日さまのごとくに光っていた。
今朝の雪が、つかの間の夢だったみたいに、空が青い。
春はまだこないみたいだけれど、ガラリとした通りを歩くのも、そう悪くない。
葉を失った小さな芽さえまだついていない骨のような街路樹達が、なんだか先ほどのガラクタロボの親戚達に見えてきた。
ふうむ。
まあ、のんびり待つとしましょうか…
2004年02月27日(金)
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