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■ あふれる思い。番外編。その3
…前回から2ヶ月…す、すいません(滝汗)。 そんなに長くならないと思いつつ、なかなか書けませんでした。 一応、2月の新刊「anemoscope」に収録した『あふれる思い』の番外編になっています。本編は「同人」のところで通販を受付中ですので、ぜひよろしくです♪おまけでミニ本つき〜。バレンタインネタの書きおろし。サイトにはUPしません。
「あふれる思い。番外編。その3」
「ああ、これ?」 ヒカルが苦笑いしながらアキラに携帯の画面を向けて言った。 「買ったばかりのとき、棋院で緒方先生に会ったんだ。で、オレが買ったって知って、教えてくれっていうから、オレも緒方センセの教えてもらったんだ」 「ふ、ふーん…」 携帯の番号を教えあう。それは、今の自分達がそうであるように、別に不自然なことではない。 だが、アキラは心の片隅でくすぶるような何かを感じていた。それは続くヒカルの言葉に余計にあおられた。 「緒方センセ、『携帯買ったのか?進藤』とか言ってさ、オレの携帯取り上げて勝手に自分のいれちゃってんだぜ〜?」 「!!」
緒方さん…、貴方って人は。自分のみならず、進藤にまで。
ふと、アキラの脳裏に、自分の時のことが思い出された。 (まさか…) まさか。そんなことはしていないだろう。第一、自分はヒカルより後に携帯を買っているのだから、まさか。 しかし、アキラの予想はある意味当たっていた。 「あれ?何だ、これ…」 携帯を操作していたヒカルの手が止まる。つられて、その画面をアキラは覗き込んでみた。 そこには、『塔矢アキラ』の文字と、アキラの家の電話番号、パソコンのメールアドレス。メモリの番号は006。 「…っ!」 思わず絶句してしまう。ヒカルにまで…というか、緒方はいったい何を考えているのか。アキラは、白いスーツの男にさらに怒りがわいてきていた。 (緒方さん……) どんなつもりなのか、今度会ったら絶対に聞き出してやる。 そう決心したアキラの横で、ヒカルが首をかしげていた。 「何でオマエのが入ってるんだろ」 ヒカルには、本気で謎のようだった。緒方を信用しているのか、それともそういった事をされたとは夢にも思わないのだろうか。その理由にも。 どうであれ、緒方のしたことは余計なことだ。そうアキラは思った。 (ボクのは、ボクから教えたかったのに) そう考えてしまう事に、どうしてだか自分でもわからないまま、少し頬を赤くしながら、気を取り直してアキラは言った。 「…緒方さんじゃない?」 冷静に、冷静にと呪文のように心の中で繰り返した成果か、声に動揺は出ずにすんだようだ。続けて、思い切って聞いてみる。 「もしかして、携帯を返される時、何か言われなかった?」 アキラの言葉に、ヒカルは天井を見上げながら思い返す。アキラの言葉が不自然だと引っかかることは無かったようだった。 「そういえば、なんか妙にニヤニヤしてたなあ。でもオレ、気がつかなかった」 そうだよなー。オレ、あの時以外誰にもこれ貸していないし。緒方センセ、入れたって言ってくれていればオマエに電話できたのにな、とヒカルは笑顔で言った。 いくらなんでもそれは無防備だろ、とアキラは言いたかったが、我慢して、話を元に戻そうとした。電話番号の交換と、打つ約束の取り付けのために。 緒方のしたことの理由は、この際どうでもよくなっていた。 とにかく、自分とヒカルのために、この場できちんと、自分達で教えあいたかった。 ヒカルが携帯のメモリに気がつかなかったのは、緒方に返された後、何も操作しないで、確認しなかっただけなのだろう。 「じゃあ、とりあえずボクの携帯番号、入れてくれる?」 「あ、うん」 ヒカルがアキラのメモリを呼び出して、再編集して…となるはずだった。そうすれば、その後はアキラがヒカルから番号を教えてもらって入れる(と見せかけるだけなのだが)だけだ。 なのに、こういったものが苦手らしいヒカルの、おぼつかない操作がその後の悲劇(ヒカルにとっての、だが)を生んだ。 「あああああーーっ!」 「な、何、どうしたんだ進藤っ?!」 携帯を手にしたまま、叫んで固まるヒカルにアキラはびっくりして声をかけた。 「…け…消しちゃった、全部」 「全部?ボクの番号をかい?」 なら最初からボクが教えなおせる、とアキラが考えたのもつかの間。 「ううん…メモリ全部」 「え?!」 ヒカルは、誤って携帯に入っているメモリを全部消してしまったのだった。 「どうしよう…和谷とか伊角さんにも教えてもらったばかりなのに」 突然のことで、アキラもなんと言ったらいいのかわからない。 教えなおしてもらうのにも手間がかかる。入れなおすにも。量が多ければ一苦労だ。そんな手間をヒカルにかけさせてしまうのが申し訳なかった。 自分が携帯番号を入れさせようとしたことが悪かったとまで思ってしまう。 「ごめんね。ボクが急がせたばかりに…」 そして、緒方が入れておいたせいだ。アキラの番号を。 やり場の無い怒りを再度白スーツに向け、アキラは言葉を続けた。 「たくさんあったの?教えてもらった番号」 がっくりとしながらも、ヒカルは律儀にアキラの質問に答える。 「ううん、まだ家と棋院と和谷と伊角さんくらい。緒方先生は入れてもらっていただけだし…オマエのも入っていたのに」 「そうか…聞きなおすの大変だよね、ごめんね」 「いや、オマエのせいじゃないって。オレ、こういうのホント苦手でさ」 笑顔で返してくれるヒカルに、アキラの心臓はまたもやドキンとする。そのまま、心臓はドキドキしっぱなしだ。 (どうしたって言うんだ、ボクは…)
とりあえず、お互いの番号なら、今、入れなおしが出来る。そうアキラが提案したことに、ヒカルが不満などあるわけが無い。 「じゃあ、これがボクのだから」 再度、自分の携帯の画面に番号を表示させ、ヒカルに入れてもらった。メールアドレスも。 アキラもまた、ヒカルに教えてもらいつつ改めて入れさせてもらう。メモリに入っていた「000」の登録番号に上書きした。 「これでオマエとはいつでも約束できるな」 「うん、そうだね」 ようやく、ヒカルとのつながりが出来た気がして、アキラはどこかほっとしていた。 「うーん…間違ってないよな、これ」 先ほどのことで不安なのか、ヒカルが呟いた。 「それなら、今、かけてみようか」 電話がかかってきた時に、登録があっていれば名前も出てくるはずだから、とアキラはその場でヒカルの番号を呼び出してかけてみせた。 「出なくていいよ。表示だけ確認して」 その言葉に、うなずいたヒカルは鳴り出した携帯の画面を自分で確認すると、アキラにも向けた。 「ホラ、これで大丈夫だろ?」 「うん…」 確認したので、アキラはそっと電源ボタンを押して終了する。着信音が途切れる。 アキラは、画面を見たとたんにドキッとした心臓を自覚した。 (当たり前じゃないか。今入れたんだから…) ヒカルの携帯の画面には、自分の番号と、名前と…そして、メモリの番号が表示されていたのだ。 『000 塔矢アキラ 090−○○○○−○○○○」 全部メモリを消してしまったことで、アキラの番号が、一番で出てくるようになっていた。ただそれだけなのに、アキラはそれだけで嬉しく思う自分に驚いた。
何でだろう。 この間から、進藤には振り回されっぱなしな気がする。
「ん、じゃあ今度こそ電話くれよな、塔矢」 顔を赤くして固まっているようなアキラをものともせず、ヒカルは携帯を閉じながら話し掛ける。 「あ、ああ。キミさえ良ければ」 アキラの言葉に、ヒカルは笑いながら答えた。 「もお、いいからそう言ってるんじゃんか。オマエって変なところで慎重なんだな」 くすくすと笑うヒカルに、なんだかむっとするような、でもくすぐったいような気持ちでアキラは反論する。 「変じゃないだろう。そう思っただけだ」 「変だよ、オマエ。今まではオレの都合なんて気にしてないような、自分勝手なかんじだったのに」 「…進藤」 笑いつづけるヒカルは、苦い顔をしたアキラをその場において棋院のドアを開けて外へと出る。 「じゃあ、またな!」 「進藤!」 明るい顔で棋院を出て行くヒカルに、その場に一人残される。 (進藤…)
またな、という言葉が、なんだか嬉しかった。 約束をすれば、また会える。しなくても、話すことが出来る。 一緒に打つことが、出来る…。 そう思うと、またアキラの心の中に、よく分からないもやもやしたような気持ちがわきあがってきていた。
何だろう、この気持ちは…。
じっくりと考える間もなく、立ち尽くしていたアキラに声をかける人がいた。 「アキラ」 「芦原さん?」 「ああ、アキラは今帰りか?」 父である塔矢元名人門下で、アキラにとって唯一心を許せる人物が、芦原だった。 人懐こい笑みを浮かべながら、芦原が言った。
「あれ、なんだか嬉しそうだな、アキラ。何かいいことあったのか?」 「…え」 「今日の対局、勝ったのか。それにしてはなんかいつもと違うな。よほどいい事あったのか?」
芦原に言わせると、自分はよほど幸せそうな顔をしていたらしい。 なんとかその場をごまかすようにして芦原と別れ(芦原は別に仕事があるとの事だった)、アキラも外へと出るドアを押した。
(いつなら進藤と打てるかな) 忙しい、自分のスケジュールを思い返しながら、歩き出したその時だった。 アキラの携帯が鳴った。 取り出してみると、画面に表示されたのは『進藤ヒカル』の文字。 慌てて電話に出た。 「進藤?!」 「っ、塔矢、声大きい。びっくりするじゃんか」 「だって、キミがかけてくるから」 とっさのことで、アキラは思わず大声で電話に出てしまっていた。そんなアキラにヒカルはまた笑いながら言った。 「言い忘れたこと、あってさ」 「何?」 携帯を押し当てている耳元から聞こえるヒカルの声がくすぐったい。 自然とアキラは携帯を耳に強く押し当てるようにして聞いていた。遠いわけではないのに、なぜだか聞き逃したくなかった。一言でも。 そんなアキラのことなど、もちろん知らないヒカルは、いつもとかわりない明るい声で「言い忘れたこと」を告げた。 「あのさ、オレも電話するって言いたかったんだ」 「…え?」 とっさに、言われたことがわからなくて、アキラはこたえられない。 「だから、オマエからばかりじゃなくて、オレからもかけるよって、それだけ。じゃあ、もう電車来るから。またな」 「進藤」 「ん?」 電車が来るから、と言いながらも、ヒカルはアキラが何か言いかけたことに気がついて、聞き返してきた。 「あ、あの…ありがとう」 「ん?何だよ、それ。別にお礼言うほどのことじゃないじゃんか。オレだって、オマエと話したいとか思うときあるんだぜ」 じゃ、ホントに電車が来たから。そのヒカルの言葉を最後に、電話が切れた。 「………」 画面に残る『進藤ヒカル』の文字を見つめながら、アキラは、さっき芦原に言われたことを思い出していた。
(何か嬉しいことでもあったのか?)
「進藤」 切れた電話に向かって、小さく呟く。 自然と、笑みがこぼれた。
…今日は、落ち着かない日だ。 何が、どうして、といわれても、アキラにもよく分からない。 ただ、ヒカルに関することがアキラをそんな気持ちにさせているのは確かで、アキラはそのもやもやした気持ちに悩まされることになるなど、このときは思いもしなかったのだった。
続く。
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2ヶ月ぶりに書いたこの話。もう少し続きます。 誤字脱字等がありましたら、こそりと教えてくださいな(汗)。 無くても、後日こそりと書き直ししているかも(おい。)ちょっとだけ、ね。
宜しければ感想などお聞かせください。サイトのほうのメールフォームよりお願いします♪メルアド無くても送れますので。このエンピツからも送れます〜。
次のこの話の更新、早くて来週のジャンプ感想の後です。今度は2ヶ月なんて空けないように…(滝汗)。
2003年02月14日(金)
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