月のシズク
mamico



 グッバイ、ブラザー

すこし早い、旅立ちの季節。
弟くんが、明日ドイツに立つ。

パーティは大盛りあがりだった。たくさんの人が、忙しい中、時間を割いて
集まってくれた。弟くんに用意したサプライズ・プレゼントは、ポラ(チェキ)
で撮った写真。ひとりひとりが好き勝手なポーズを取って、メッセージを書き
込んだ小さなアルバムは、思いのほか、厚みができてしまった。

幹事さんというには大袈裟すぎるが、企画は私がやらせてもらった。
午後、いろいろ写真を撮った。謎めいた空間の女子トイレ(!)や、
私たちがよく煙草を吸ったベランダ、入り口に設置されたセキュリティ装置。
設置当初、使い方がわからずよく守衛さんに助けてもらった場所だ。

どれも思い出深いものばかり。忘れないでね、というよりは、
憶えていてね、という思いを込めて、何度もシャッターを切った。

なんだかんだとこの一年、弟くんには世話になった。
もちろん世話もしたけれど、根本的な部分で、私はやはり世話をかけていた
のだと思う。深夜のビリヤード場で大騒ぎしたり、夜明け近くまで与太話に
付き合ってもらったり。いつだったか、風邪で寝込んでいたとき、苺のパック
を配達してもらったこともある。「しょーがねーな、ねーちゃん」と云われながら。

二次会も済み、誰かが「ラーメン喰いに行こうぜ」と提案した。
賛同したメンバーは、北風が強い夜の街へ出る。不意に両側から肩を組まれた。
左側に弟くん、右側にコザルくん。私はふたりの長身オトコに挟まれ、よろめき
ながらも果敢に歩いた。「オリジナル・メンバーだよな」と、コザルくんが云う。
そう、私たち三人は、悪ガキのようにつるんで、よくじゃれていた。

ただただ楽しかった日々は、遅れてやって来た青春日記のようだった。
笑ってばかりいたような気がする。プライベートも本業も、何の関係も
ない場所で、私たち三人は、笑って、寄り添って、励まし合っていたのだ。

「明日からさみしくなるなー」と、コザルくんが叫んだ。
「まったくだよぉー」と、私も叫んだ。
弟くんは、ただわらって「じゃな」と手を振った。

2004年02月26日(木)
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