2005年10月14日(金) |
奥田照則『母と神童 五嶋節物語』 |
この前テレビで初めて五嶋龍を知りました。 予備知識ゼロで突然その演奏が目に入ってきた瞬間、くぎ付けになってしまった。 育ちのよさそうな、明るい、まっすぐな、ふつうの青年、でも、その演奏は、人をひきつけてはなさないものでした。 まるで体の一部のように自然にバイオリンと弓が動いて、そこからあふれ出てくる音が、すごい。 豊かで、みずみずしくって、新鮮で・・・言葉にしてしまうととても陳腐なんですが、とにかく、比類ないものなんです。
何者なんだろう? 私はとても興味を持ちました。
五嶋という苗字から、もしかして・・・と思ったら、やはり、バイオリニスト五嶋みどりの弟さんですね。 それにしても、姉弟二人ともすごいバイオリニストだなんて、すごく不思議で、さらに興味深くて、秘密が知りたくてこの『母と神童 五嶋節物語』を見つけてきました。
この本は母五嶋節さんの生い立ちから子育てのドキュメントです。
なるほど、この母にして、この二人の天才があったのだな、と。 節さんご自身も若いころバイオリニストを目指すくらい真剣にやってらしたのですが、時代や環境が叶わずその道を断念された経緯がありました。 そして、みどりさんと龍さんが小さい頃からご自身でレッスンをされたわけです。
ここまでだと、わが子に自分の夢を投影して、猛烈早期英才教育をほどこした、という感じなんですが、もちろんそれだけではない何かがあります。 たとえば、節さん自身の人間としてのパワー、個性、子どもに対するありあまる愛情、そして、教育に対する冷静な判断力、そんなものがものすごくいいバランスで作用したのかなあ、と思います。
それにしても、私が思うのは「型」と「個性」とどちらを尊重して育てるかということなんですけれど、この五嶋節という人は「型」を身につけさせる教育のひとつの頂点を極めたんじゃないかなあということです。 もちろん、この二つはまったく対立するものではなく、どちらも大切なものですし、節さん自身のスタンスとしては、一度「型」を身につけさせてその上ににじみ出てくるのが「個性」である、という立場なんですが、この「型」に対する要求がものすごく厳しい。 5,6歳の子どもに毎日3時間の練習をさせ、「集中できなければ意味がないから、あまり長時間はさせない」とのたまう。 「楽器がちいさいのはしかたがない。握力が弱いのも、ある程度はしかたがない。だが、イントネーションや音楽の感情、知識などは幼いからといって要求を減らさず、節の知る限り最高の完成度を求めた。」 そして、こういうレッスンの結果として、二人の演奏家としての突出した集中力、技術力、プロ意識がつちかわれたのはいわずもがな。 こういう教える側の妥協を許さない熱意という点では、一つのかくあるべき姿だという気がします。
そして、母が子に対してそれをしながらも二人が最終的に「ママが一番好き。」と素直に思えているからすばらしい。
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