星降る鍵を探して
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2003年09月12日(金) |
星降る鍵を探して4-3-4 |
――何を? と聞きたいが、聞きたいのだが、聞くわけにはいかない。 「もうほとんど完成してるの。最終チェック待ち、というところかしら」 「最終チェック、待ち?」 「そう。セキュリティをあまり厳重にしすぎたのが裏目に出たの。あの鍵がないと、最終チェックも出来やしないわ。かといってあの鍵を一から作り直すとなると、あまりにも時間がかかりすぎるしねえ」 「鍵って……金時計?」 「そうよ」 玉乃はこちらを見上げて、ため息混じりに苦笑して見せた。 「怪盗があの金時計の価値を本当にわかって盗んだとは思えないわ。あの時計はこの世にひとつしかない。そしてあの時計の値段は、そうね――国家予算の三年分、というところかしら」 「……」 ――あの安っぽい悪趣味な時計が……!? 克は驚愕した。したが、それを表に出す寸前で思いとどまった。玉乃はじっとこちらを見上げている。その視線の前で、下手な反応を見せるわけにはいかない。克はちょっと考えるふりをして見せた。 「三年分か。実感があまり湧かないですね。実物を見てないし」 「そうか、そうよね。見たらビックリすると思うわよ。すごく安っぽくて悪趣味な時計なの」 ま、それもカモフラージュのためなんだけどね。そう言って、玉乃はきびすを返した。こつこつとヒールの音を響かせて、手すりに沿って歩いていく。何となくそのままついていくと、程なく左手、手すりの反対側の壁がガラス張りになっているところまでやってきた。 「ここが操作室」 くるりと振り返って、微笑む。 「梶ヶ谷先生はしばらくここで待機していろ、と言ったのよね? その間暇でしょうから、いろいろ解説してあげる。あたしもね、こう見えても科学者の端くれなの。だからこそここに潜入する仕事を仰せつかったわけだけど」 克は頷いた。そうですか、としか言いようがない。玉乃も頷き返して見せた。 「今ね、梶ヶ谷先生は、遠隔操作の研究に没頭してるわけ。鍵が戻ってくるまでの間に、地球上のどんなところからでも操作できるようにするんだ、なんて張り切ってたわ。――どうぞ、入って。実演して見せて上げるから」
そのガラス戸の中は、複雑な機械で埋め尽くされていた。 その光景は、何か、スポーツの中継などで見るアナウンサーと解説者が座るボックス型の放送席を思わせた。それは恐らく曲がったマイクが数本飛び出ていたからなのだろう。設えられた椅子に座るとちょうどそのマイクが口のあたりに届くようになっていて、これはここから、階下で作業をする人間に指示を出すためのものらしい。 マイクのそばには非常に複雑な機械が置かれていた。様々なスイッチ、様々なつまみが所狭しと並ぶ様は、本当に放送局のディレクター席を思わせる。 玉乃は真ん中の椅子に座ると、こちらを見上げてにっこり、とした。 「地球儀の方を見ていて。今から動かしてみせるから」
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