星降る鍵を探して
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2003年09月21日(日) |
星降る鍵を探して4-4-1 |
4章4節
四人は、ようやく二階まで降りてきていた。 ここに至るまで一度も誰とも出会わなかったというのは、かなり異様なことなのではないだろうか、と梨花は思っていた。もう遙か以前のことのような気がするが、とにかく梨花がひとりで屋上からこのビルの中に潜入したときには、即座に高津に出会ってしまった。その後高津に連れられて降りる途中でまた『玉乃さん』に出会った。また高津の後をつけて地下まで降りていって見たら、下にはマイキと卓と高津を除いても四人もの男がいた。こういうことを考えてみても少なくともこの建物は無人ではないはずだし、玉乃の話に寄れば研究者が大勢いるということだったし、流歌を捕まえて閉じこめておいたということを考えてみても無人と言うわけではないだろうし――なのにどうして、先ほどから、人間の気配すら感じられないのだろう。 と、先頭を行く怪盗姿の圭太が、一階へ続く階段の上で立ち止まった。 「さー、ここからが問題だ」 「ここまで降りてこられたんだから、窓から出た方がいいかもね」 と流歌が相づちを打っている。先ほどから思っていたのだが、この兄妹はどうやらこの建物の中にとても詳しいようなのだ。さすが兄妹というべきか、もっと言えば双子だからなのか、言葉に出さずに意志疎通が出来てるんじゃないかと勘ぐりたくなるほどに息があっている。もしかしたら記憶まで共有してるんじゃないだろうな、と思ってしまうのは、圭太と流歌が二人で何かしているところに居合わせるのはこれが初めてだからかも知れなかった。 今まで、全然似てるなんて思わなかったのに。 梨花の所属する『隠密活動部』と、圭太の率いる『怪盗研究会』はとても親密な関係にある。非常時には助け合うばかりでなく、構成員の貸し借りすら行われている。だから梨花は圭太のことを、『一風変わった先輩』という目で見てきた。友達のお兄さん、だなんて目で見たことはなかったし、流歌と圭太が兄妹だなんて、流歌に言われるまで知らなかったほどだ。 でも、こうして見ていると……本当に血がつながってるんだ、本当に兄妹なんだ、本当に、双子なんだな、と。変なことに感心してしまう。それはちょっとくすぐったいような、そして妙に寂しいような、おかしな気分だった。 横目で見やると、同じ気持ちなのだろうか、剛が複雑な表情をしている。否、恋愛感情が絡んでいるだけ、剛の方が複雑な気分かも知れない。この単純な男は、自分の感情がまるまる表に出てしまっているということに、全く気づいていないようだ。梨花から見ればとてもわかりやすい。流歌がどうして剛の感情に気づかないのかがとても不思議で、剛が少し哀れになってくるほどだ。 ぽん。 梨花は剛の背中を叩いた。 剛がいぶかしそうにこちらを見下ろしてくる。 「何だ、飯田梨花」 「負けるなよ、先輩」 「……何に?」 「いえ別に。ねえそれ、どういう意味?」 梨花は二人の背中にそう訊ねた。この兄妹は、今は二人揃って階段の手すりから身を乗り出して、下を窺っているところだった。背中が、というより仕草が、本当にそっくりだ。何だか、変な感じ。 梨花の言葉に、二人は揃ってこちらを振り返った。 「やっぱり、いるみたい」 と流歌。 「どの出口もこんなだろうな」 と圭太。だから二人で納得するなっての。梨花は仁王立ちになって腕を組んだ。 「説明してください」 「そ、そうだそうだ」 先ほどの梨花の激励をなんと解釈したものか、剛が横から口を出した。圭太が階下の方へ顎をしゃくってみせる。 「ここへ降りてくるまで、人がいなかっただろ?」 「うん」 と梨花と剛の相づちが重なった。 「一階にほとんど全員が集まってたからなんだろうな。うじゃうじゃいる。見てみな」 梨花は剛と顔を見合わせた。そして同時に手すりに駆け寄って、下を覗き込む。しかしどんなに身を乗り出しても上への階段が邪魔で見ることが出来ず、もっと身を乗り出したら落ちてしまいそうで、移動しようかと思ったとき、剛が唸った。 「……うーむ、なるほど」 「清水さん、見えました? あたしまだ見え」 言いかけると剛がいきなり梨花の首根っこを掴んだ。ぐいっと手すりから引きずり下ろされそうになって思わず息を飲む。視界が逆さまになる。揺れる視界に、なるほど確かに、下をパトロールしている黒づくめの男の影が見えた。 「……見えたか?」 剛の声が聞こえる。こくこく、と頷いたが、首根っこを掴まれているため上手く行かない。手をのばしてぽんぽん、と手すりを叩いた。空手に『参った』があるかどうかは知らなかったが、それで通じたようだった。再び首を引っ張られて、元の階段にどすんと落とされる。 「お前さあ……」 圭太が呆れたように呟き、流歌がとんとんと梨花の背中を叩いてくれ、梨花は喉元を押さえて大きく息をついた。剛は三人の反応の意味がわからないようできょとんとしている。悪い人じゃないんだけど、でもやっぱりあんまりもてそうもない人だよなあ。梨花は思って、もう一つため息をついた。
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