星降る鍵を探して
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2003年09月22日(月) |
星降る鍵を探して4-4-2 |
ともあれ、ここまで順調に降りてこられたのは、敵が一階に固まっていたためらしい、と言うことがこれでわかった。圭太は思案深げに手すりに寄りかかって、ため息をついた。 「やつら、人数はそれほど多くないからね。捕まえるよりも逃がさないようにした方が確実ってことなんだろ」 流歌も頷いた。 「出口を固めるのは、人数そんなにいらないもんね」 「でもそれじゃいつまで経っても金時計が戻ってこないじゃない」 と梨花が口を出すと、二人は揃って頷いた。 「そう、だから、警告したのよ」 と流歌が言った。 「見つけたっていう『ひとり』が掴まったら、ここに電話がかかって来るんだろう」 と圭太は言って、どこからかシルバーピンクの携帯電話を採りだした。あ、と流歌が声を上げる。 「あたしの電話、取り返してくれたんだね」 「あとハンカチと、キーホルダー。靴まではポケットに入らなかった。悪いな」 「ううん、充分。ありがとう」 と流歌がにっこりして、受け取ったものをポケットにしまう。梨花は腕を組んで、今言われたことについて考えた。 「てことは、誰かが捕まったら、交換条件として金時計を返せって、連絡が来るってわけ……?」 そのためにわざわざからかうようにして警告してきたわけなのか。ようやく少し腑に落ちた。圭太が頷く。 「でもお兄さんがそう簡単に捕まるわけはないし、放って置いても大丈夫だろ。心配なのはマイキちゃんだけど、新名くんと一緒なら滅多なことはないだろうし。なら早いところ合流しちまって、何とか出口を見つけて外に出ればそれで片が付く。新名くんたちは地下だっけ?」 「……そうね」 梨花は頷いて、ふと、不安になった。克の方は全く心配はいらない、と梨花も思う。でも、卓とマイキの方は……? 普段の卓ならば確かに大丈夫だろうけど、先ほどの辛そうな様子を思い出すと、いてもたってもいられない気分になってくる。 「で、金時計と言うのは一体何なのだ」 梨花の不安をよそに、今まで沈黙していた剛が口を出してきた。剛は剛なりに、現状について考えていたものらしい。しかし圭太はさて、と言って二階に戻った。そのまますたすた歩いていく。 「地下に降りられる道を探さなくちゃな」 「待てい、須藤圭太」 と存外素早い動きで剛が圭太に追いついた。 「貴様我々をここまで巻き込んでおいて、肝心なことはちっとも話さないではないか。言え。この金時計は一体何なのだ?」 と話しかけながらも二人の進む速さは止まらなかった。圭太のマントを掴んだ剛の巨体が、ずるずると引きずられていくのである。圭太はちっとも力を入れているように見えないのに、あの巨体が止まらずに引きずられていく様は何だかひどく、異様だ。 「だから鍵だって言ってるじゃないか」 平然と圭太が答えている。だからあ、と剛が声を荒げた。 「だから何の鍵だと聞いておるのだ!」 「だからそこまでは知らないって」 「嘘をつけ! 怪盗ともあろうものが何の鍵かも知らずに盗むわけがない、そうだろう!」 「珍しく鋭いね、どうしたんだ」 というような会話を交わしながら、ずるずると音を立てて二人が遠ざかっていく。梨花と流歌は顔を見合わせた。何となく、追いかけるタイミングを逃してしまった。二人は同時に苦笑して、何となく同時に歩を進める。 「流歌、知ってんの?」 訊ねる、と、流歌は首を振った。 「知らないよ。ただ、」 一瞬、言葉が途切れる。 そして流歌は、呟くように言った。 「……ただ、あの『先生』が守ってるんだから。ろくなもんじゃないと思うよ」 そう言った流歌の言葉は、普段の流歌からは想像もつかないほどに、ひどく辛辣に響いた。
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