星降る鍵を探して
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2003年09月23日(火) |
星降る鍵を探して4-4-3 |
先生。 という言葉は、流歌の口から何度か聞いたことがある。流歌が昔、一年学校を休んだとき、病院と家で家庭教師をしてくれたという人の話だ。流歌はそのことについてはあまり話したがらなかった。ただ、圭太と一緒に怪盗家業をしているのは、その人が嫌いだからだ、というようなニュアンスは掴んでいた。 でも。 先生が、流歌に一体何をしたのか――ということまでは聞けなかった。 七年前。否、六年前になるのだろうか。流歌の怪我がほとんど治り、一年遅れで学校に復帰する直前に、何かがあったのだ。何があったのだろう。六年という長い月日が経っても、流歌は『先生』について話すとき、今のように辛辣な、それでいて不思議な危うい表情を見せる。 中学生の頃に、自分が何を考えていたかなんて、梨花はもうほとんど思い出せないくらいだと言うのに。流歌は未だに、その頃のことに縛られているのだろうか―― 「梨花?」 先を行く流歌が振り返って、にこっとした。その表情はいつもの流歌のものだ。梨花はホッとして、いつの間にか止めていた足を早めようと、して。 その物音に、気づいた。 梨花は足を止めた。そして振り返った。何だろう、今の――? 「梨花?」 流歌の不思議そうな声が聞こえる。その声にだろうか、先を進みながら、低い声で言い交わしていた剛と圭太の声も止んだ。それであたりに静けさが落ちる。 ――…… ――……た。 ――……まえた。
捕まえ、た。
「梨花!?」 流歌が上げる声を背にして、梨花は今来た道を駆け戻った。聞こえた。階段の下から、男たちが言い交わす言葉が、ざわめきになって聞こえてきたのだ。男たちの言葉はほんの低いもので、耳鳴り程度にしか聞こえなかったのだが…… きゅっ、とスニーカーが音を立てる。階段を駆け下りる。先ほど剛に首根っこを掴まれた辺りを通り過ぎ、手すりに身を隠すようにして下を覗き込むと――下の階段のあたり、地下へ続く階段のところに、黒い服の男たちが数人固まっているのが見えた。
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