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No-Mark Stall *




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シスコン。 | 2006年07月25日(火)
彼女はとても整った容姿をしていた。
絶妙な線を描く優しい顔の輪郭を縁取るのは柔らかくうねる豪奢な長い金の髪。
少し高めの鼻と、好奇心に満ちてきらきら光る、海のような蒼い瞳に長い睫が時々淡く影を落とす。
最も目を惹き付けるふっくらと赤い唇に、染みひとつない白い肌。
弓を引くようにゆっくりと唇を吊り上げて、カノジョは艶やかに笑う。

挑戦的で自信に満ちた笑い方をする女だ、と彼はいつも思う。
初対面の人間であれば誰もが見惚れるであろう魅力的な微笑だ。
しかし、彼女の本性も何もかも知り尽くした彼は苦々しさしか覚えない。
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。あいつに男が出来たって?」
「そうよ。可愛い可愛い私の妹にドコの馬の骨とも知れぬ優男がちょっかい出したのよ」
ただじゃおかないわ、と囁くその声は低く剣呑だ。
「あのなぁ、あいつもいつまでもガキじゃないんだから男のひとりやふたりくらい作るだろ。むしろ恋人がいない方が心配になるぞ俺は」
「それが村の人間だって言うんなら、私だってむかつくけど半殺しで済ませるわ。だけど流れ者よ」
「……まあ前半部はおいておくとして、確かにそれは多少心配ではあるが」
「そんな正体不明の輩があの子にべたべた触ってると考えるとぞっとするわ」
ひとりで勝手に想像を膨らませてかっかしている彼女の肩を宥めるように軽く撫でて、彼は溜息をついた。
「あのな、心配するのは分かるがな、少しはあいつを信用してやれよ」
「何が言いたいの」
「素性が怪しくても一応あいつが選んだ男なんだ、大丈夫だろ」
「でもあの子、歳の割に世間知らずだし、手練手管に長けた男に騙されてるかも」
「お前がそれを言うなこの箱入り娘」
む、と彼女は眉を寄せる。
「バカにしないで頂戴。ちゃんと料理も買い物も洗濯も出来るわよ、私は」
「はいはい」
言い返すのにも疲れて彼はおざなりに頷いた。
不満げな顔つきの彼女が唐突に拳を振り上げるのにも卒なく対応し、彼は青空を仰いだ。
箱から出さなかった筆頭である彼は一生付き合う覚悟をしている。
しているものの、やはり疲労感は否めない。
「育て方間違えたか」
相手に会ったらどうしてやるこうしてやるとぼそぼそ呟く彼女の頭を撫でながら、彼は肩を落としてこっそりと嘆いた。


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離れて暮らす妹に恋人が出来て取り乱すひとたち。
彼は暴力的なカノジョとぽややんな年下の幼馴染を抱えてかなり苦労しているようです。
written by MitukiHome
since 2002.03.30