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昼下がり。 | 2008年04月11日(金) |
「……フェリシア、何してるの?」 ぼんやりとしていたせいか、ノックのあとの返事も聞かずにドアを開けてしまったフェリックスは、のんびりと首を傾げてバルコニーの幼馴染を見つめた。 どこから手に入れてきたのか、彼女が普段屋敷の中で着ているドレスよりかなり劣る質素な服を纏い、ふくらはぎどころか太腿近くまでその裾をからげて、豪奢なバルコニーを乗り越えかけているその様子はどこからどう見ても不審者だった。 「何って、これから下に飛び降りようかと」 「足の骨折っちゃうよ」 普通の男であれば慌てて駆け寄るなり晒された脚に動揺するなりの様子を見せたであろうが、幼い頃から彼女と一緒くたに育てられたフェリックスは後ろ手にドアを閉め、平然と歩み寄る。 「街に行きたいなら言ってくれればいいのに」 「それでふたりして行方不明で大騒ぎ? あんたと一緒に出かけたらみんな本気で追いかけてくるじゃない」 唇を尖らせて不満をもらしたフェリシアは彼に見つかってしまったことで脱走計画を諦めたのか、柵にかけていた足を戻した。 「リジー、あのね、男の僕より女の子の君がいなくなる方が心配されるよ」 「でもフェリックスだって王太子でしょう」 「まあそうだけど」 幼い頃の愛称で呼ばれたフェリシアは、差し出された手に自らのそれを重ね、木靴を脱ぎ捨て絹の部屋履きに履き替える。 そのまま服を脱ぎ出した様子にも動揺せず、フェリックスはカーテンを閉めると隣室から替えのドレスを持ってきた。 既に下着姿になっていたフェリシアはまがりなりにも異性である彼の存在を当然とばかりに気にかけず、礼を言って袖を通し始める。 コルセットを締め上げるのに手を貸し、フェリックスは簡単に畳まれていた先ほどの服を取り上げると近くにおいてあった衣装箱にしまいこんだ。 「思うんだけど、脱走っていうのはもう少し慎ましやかにやるものじゃないの?」 白昼堂々、しかも人目につくバルコニーから飛び降りようとするのはいかがかと彼は疑問に思ったが、しかし妙なところで神経の太い幼馴染は明るく笑い声を上げた。 「だってこれまで何度かこっそり抜け出してみたけど誰も何も言わないんだもの。見つかるようにしたらどうするのかしらと思って」 「そんなに怒られたいの?」 「別に怒られたいわけじゃないけど。純粋な好奇心?」 それは違う、とフェリックスは内心で彼女の答えを否定する。 生まれてから数年も経たぬうちに両親の元から引き離され、昨年まで王城で暮らしていた彼女にとって、生家であるはずのこの屋敷は未だに『よその家』という認識なのだろう。 彼女の家族や使用人たちが、フェリシアのことに心を砕いているのはよく分かる。父親は、主人である自らを差し置いてもっとも日当たりと景色の良いこの部屋をフェリシアに与えたし、内装も彼女の好みをよく理解したものになっている。 そもそもフェリックスが彼女の部屋を訪れたのも偶然ではない。彼女の父親とお茶を飲んでいたところに、お嬢さまが脱走しようとしている、と慌てふためいてやってきた家令に頼まれて来たのだ。 しまい忘れていた木靴を手に取り、同じように箱に収めながら、フェリックスはくすくす笑う。 「なんか僕、王太子やめてもどこかのお屋敷で侍女が出来るかもしれないなあ」 「どこに男に娘の着替えを手伝わせるような家があるっていうのよ」 「君とか」 「嫌味? それを言うなら私だってあんたの着替えくらい手伝えるわよ」 胸を張るところが間違っているような気もするが、フェリシアはとんと胸を叩いて自慢げに言った。 「タイ留めるのはフェリシアの方が上手なんだよねえ。なんでなんだろ」 「まああんたが留められなくてもキャロルに留めてもらえばいいだけの話でしょう」 「……うーん、僕の方がキャロルよりドレスの着付け方分かってそうだしなあ。そんな素敵な未来はまだちょっと遠いかな」 ****** フェリシアの相手役をぼちぼち固め中。適当に書いてたら筆が滑って予想外のネタが出てきました。コメディ100%のはずなのに。 フェリックス君はのんびり首を傾げるのが癖のようです。そりゃ冠もよく落ちる。 ていうかこのふたり相手役が他にいるはずなのになんで平然とべったり、というか女王様と下僕しているのか書いてるこっちが首傾げます。 多分フェリックス君はコルセット締めるのが上手いのを奥さんに不審がられてプチ修羅場になることだろう。 |