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No-Mark Stall *




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暗闇の中で。 | 2008年10月02日(木)
何も見えない暗闇の中をひたすらに進んでいく。
両手を横に伸ばすこともできない、ひとりがぎりぎり通れるぐらいの横幅しかない狭苦しい穴の中はじっとりとしていて落ち着かない。天井は私の腕を伸ばしても何もなかったのでそれなりに高いらしいというのが救いといえば救いだが、ともあれ土の中に閉じ込められているというのは根源的な恐怖を呼び起こす。
今すぐにでも引き返したいという私の気持ちとは裏腹に、私の腕を掴んでいる男の歩みは足早で迷いがなく、荒く整えられた地面のでこぼこにつまづきそうになりながら必死で追いかける。
下り坂になった、とむき出しの足の裏が感じる傾きの差から判断した瞬間、ぴたりと男が足を止めた。
勢いを殺しきれず、足をもつれさせながら男の背にぶつかる。
「……」
元より音のほとんどない空間ではあるが、そこに重い沈黙が落ちた。
とりあえず離れようと身体を捻るときに男の手から抜けて自由になった両腕でその背を軽く押そうとした瞬間、指先が私の頬にそっと触れた。
「……あの」
何かを確認するように、それは頬から顎へと流れ、首を通り過ぎて鎖骨で止まる。くすぐったさに身をよじると、指は遠慮するように肩へと流れた。
それとは別の手に突然手首を掴まれ、思わず肩を揺らす。
「……ええと」
答えはない。手も何の動きも見せず、ただ沈黙を守っている。
目を封じられた状態ではあとは耳に頼るしかないが、捉えられたのはふたり分の呼吸のかすかな音ぐらいのものだ。
――本当に、ふたりなのだろうか。
何も見えない闇の中で、この指先が、手首を掴む手が、両方とも男のものであるという保証はない。横幅は狭いが、ずっと同じ幅で穴が続いているとは限らない。高さもそうだ。
第一彼は背中を向けているはずなのに、どうして腕をこちらに向けているのだろうか。
疑い始めるときりがない。
背にじっとりと汗をかき、動けないでいる私のことをどう判断したのか、肩口で止まっていた指が先ほどまでの道筋を辿るように首を撫で上げた。
思わず首を竦めた私のうなじをその手が押さえる。
耳を私のものではない髪が掠めた。頬に誰かの頬が寄せられる。
「私はここにいます。あなたも。それ以外は考えなくてよろしい」
耳慣れた囁きが強く断定する。
思わず頷きそうになり、はっと我に返って思わず目の前の暗闇を睨みつける。声にならない笑い声が耳をくすぐった。
「この坂が終われば外に出られますから」
宥めるように髪を撫でられ、先ほどまでの怯えが綺麗に姿を消したことを不思議に思いながらその言葉に頷いた。


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……このひとたちはいったい何をしてるんだろうか……。
written by MitukiHome
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