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ファニーツァとウィエリ。 | 2009年09月04日(金) |
ファニーツァは湿り気の残る芝の上に裸足で降り立ち、満足げに深く息を吸った。 ここ数日続いていた陰鬱な雨がやっと上がり、きらきらと輝くような涼しい風の吹く、爽やかな青空が広がっている。 こんなに気分の良い朝は久々だ。雨が降らなくては農作物は枯れてしまうが、止まなくても土やひとの心を腐らせる。 「ファニーツァ」 そのまま踊るように芝生の上を歩く彼女に、家の中から声がかかる。 上機嫌のファニーツァはくるりと振り返って「あら」と目を丸くした。 「お父さま、もうお戻りになっていらしたの」 「それより早く家の中に入りなさい。年頃の娘が朝から寝間着のまま、しかも裸足で庭をうろつくなどはしたない」 ファニーツァの父親は機嫌の良いときと悪いときの差が激しい。どうやら今は呆れるくらい陽気で楽天的な父ではなく、気難しい頑固親父殿であるようだと肩を竦め、ファニーツァは屋敷の中に上がる階段に足をかける。 「ファニーツァ・キオージェ」 足についた泥を軽く払っていたファニーツァは、届いた厳格な声に訝しげに顔を上げる。 回廊を支える柱の陰に隠れた父の表情はうまく読み取れない。ただその青灰色の瞳が常になく鋭く、そして暗く光っていることに気づいて息を詰めた。 * 「ウィエリ・セラーティ」 呼ぶ声に足を止める。 殊更ゆっくりと振り返り、彼を見上げる焦げ茶の瞳と目を合わせてにっこりと微笑んだ。 「何か?」 「何かじゃないわ。どういうこと?」 「何が?」 「わかっててはぐらかすのはやめて。私が承知するとでも思った?」 「でも王も既にご承知のことだ、今更覆せないだろう? それに、君は父親の決定には逆らえない」 「そして次はあなたの決定に従えというのね」 彼はその言葉には答えず、ただ目を細めた。ファニーツァは低く唸るような溜息をついて彼を思い切り睨みつけた。普段はふわふわとして暖かそうな赤茶の髪が、今はうねる蛇と錯覚させるような迫力すらある。 まるで毛を逆立てた猫のようだ、と口にしたら間違いなく引っ掻かれるようなことを思い、ウィエリは彼女に向かって足を進める。 「ファニーツァ。別に悪いようにはしない。豚のように太った好色な年寄りのところに行くよりはずっとましだろう?」 「それはそうだけど、あなたが夫になるなんてことにだって納得できないわ!」 悲鳴のような拒絶に、いささかむっとしてウィエリは彼女の腕を掴み、顔を覗き込んだ。 「どうして」 常に温厚そうな微笑を浮かべているウィエリの険しい顔に、ファニーツァは一瞬唇を強張らせたが、思い直したようにきっと眉を吊り上げる。 「なんで私が嫁がなくちゃならないの!」 「それは君が女の子だからだろう」 「そうじゃなくて! なんで私が家を出てかなくちゃならないの!」 「それは君に弟がいるからだろう」 「しかもなんでその先があんたなのよ! 冗談じゃないわうちの領土は渡さないわよ!」 渡さないんだからー! といささか舌っ足らずな口調でわめいたファニーツァは、自分の感情を抑えきれなくなったのか、小さな女の子のようにわんわんと泣き出した。 「……そういう心配なの?」 そりゃ確かに魅力的だけど別に君の家の領土なんかもらわなくてもやってけるようちは、と口の中でもごもごと呟き、ウィエリは泣きわめくファニーツァを抱き寄せた。 「ファニーツァ、ちょっとその泣き方は色気なさすぎると思うんだけど」 「う、うる、うるさ…っ、うっく、うあああん」 ぽんぽん、と幼子にするように背中を軽く叩き、ウィエリは深い溜息をついた。 ***** リハビリ中にしても微妙な文章だ……。 もうちょっとシリアスな雰囲気にするつもりだったんですがウィエリとファニーツァを会話させたらなんかかわいい感じになってあれ?みたいな。しかもなんか設定と違う展開になっている……もっとこう険悪で敵同士っぽくておとなな駆け引きみたいなイメージだったのに。 最近どうも政略結婚ネタが好きです。 |