何故彼女なのか。 その疑問は、あまりに根底的であり口に出すことのないものであった。 容姿の美しさか。 その戦闘能力の高さか。 知性か。 強さか。
そのどれもが問いの答えのようであり、またそうでないようであった。 彼女は様々な面で他人より恵まれている。 少なくともこの世界において、客観的にハイレベルである。 美貌、強さ、頭脳…そのどれもを誰もが羨むに違いない。 そしてその集合体たる彼女は、いわゆるカリスマ性を強くまとう女であった。 そこに疑問の余地はない。 何故なら、彼女は恵まれた女性なのだから。
しかし、それがどうしてもアキラにはひっかかるのだった。 彼女は美しい。 彼女は強い。 彼女は頭の回転が速い。 何故か。 それが持って生まれた能力だからか。 ならば何故、彼女はそれらを持って生まれてきたのか。
恐るべき魅力をもって何人もの人間を懐柔する力、それが彼女に備わっているのは何故か。
多くの人間がその疑問を持たない。 「彼女が恵まれた人間であるから」という答えが無意識にそれを打ち消すからである。 だから、アキラがそれを脳裏に浮かべたことは、むしろ特別なことであった。 もしかすれば、それは遠い歴史の向こう側にて同じ血を分けた人間であったからこそ、持ちえた問いなのかもしれない。
ツグミ・カンザキ。 そのあまりに魅力ある女の存在起源について。 彼の頭の中をたった数分支配したこの問いは、コンコン、というドアのノック音によって散って消えた。
「どうだった」 「ああ…悪い報せだ」
チョコレート色のドアを抜けて彼の眼前に現れた黒衣の子どもが、それを氷解させるヒントを持っていることを、彼は知らない。 既に彼の意識は相手の次の言葉を待つことだけに傾けられていた。
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