俺が言うのもどうかと思わなくもないのだが,あの派手な髪色はとにかく目立つのだ。 別段小柄であったり大柄であったりもしないというのにあの男が目立つのは、あの髪色のせいだと思うのだ。 あり得ないぐらい一色に染まった橙の、あの髪色が。 すぐに見つけ出せるのは、ただただそのせいだけなのだろうと、思いたい。 繁華街はとにかく人が多くて、知り合いに会いそうで会わない場所だと思う。だからよく行く。 ただひたすらに時間をつぶすためにどこへともなく歩くのにちょうどいい。 繁華街と言う所の雑踏の中は人の声やら何やらがうるさいが,それがいい。気がまぎれる。 ただ見知らぬ人々の人ごみにまぎれて、知り合いの誰もいない所へいくような錯覚を求めているのだ。俺は。 おまえはそれが嘘だと言うけれど、それはただおおまえが孤独に慣れていないからではないのか。 俺とおまえをいっしょにするなと何度言っただろう。 そしておまえはその度それを一体何度否定したのだろう。 「亜久津」 きこえるはずのない言葉も、声も、なにもかもが錯覚で、ああきっとこれは夢の中なのだとふと思う。それなら早く起きてしまいたい。夢なら醒めてほしい。 俺を目にとめた瞬間笑って、駆けてくるおまえなどみたくない。もっともらしい嘘をついて俺を好きだというおまえなどみたくもない。 同情も、憐れみも、慈悲深さも、残酷さも、優しさも、愛情も、いつか冷めるものなんてなにひとつ欲しくはないのだ。 だまされるのは嫌なのだ。我慢ならないのだ。 なぁ、おまえを即座に見つけるのは,おまえを即座に探すのは,俺がおまえを愛しているからなのではないのだ。 これはただの恐れが呼び出す防衛本能なのだよ、千石。 -- もう一体誰なのかわからない一人称で…。
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