華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2005年11月04日(金) 秘密営業。 〜職場不倫〜 |
<前号より続く> 半月ほど経った、残暑厳しい月末。 待ちに待った給料を得て時間と予算に余裕の出来た俺は、綾乃にメールを出した。 『ご無沙汰、平良です。今度はいつ入る?』 思いの他、すぐに返事が返ってきた。 その内容は、またしても俺の予想を裏切るものだった。 『Re:あやのです。 今入って入るよ。でももう秘密営業やめたの』 意外な内容に、俺は冷静を装って返事を打った。 『Re:Re:あやのです。 そうなんだ。別に良いけど、でもなぜやめたの?』 またすぐに返ってくる。 『リスクが高すぎるからよ』 ・・・その言葉の真相は何なのか。無性に興味が湧いてきた。 『今、近くにいるんだ。今から行くね』 本当は近く、というほどの距離ではなかった。 俺は突き上がって来る綾乃への好奇心の赴くままに、車を走らせた。 路上のパーキングメーターに300円をつぎ込み、例の店があるマンションへ直行する。 上の矢印のボタンを押す。 最上階に停まっていたエレベーターが降りてきた。 この僅かな時間さえ、じれったい気分だ。 ようやく降りてきたゴンドラに乗り、4階へ向かった。 店に入り、受付でそのまま全裸コースを注文する。 脇の写真は紛れも無く、綾乃。 俺はそのまま綾乃の待つ部屋に通された。 「やあ、こんにちは」 「本当に来たんだぁ(笑)」 驚きの表情を浮かべた綾乃。 そこには笑顔は無かった。 「さっきのメールでも言ったけど・・・もうしないから」 「いいよ。でもさ、何で突然やめちゃったのか知りたくてね」 「理由ねぇ・・・」 服を脱ぎながら、綾乃の言葉が途切れた。 「だって俺、本当に楽しみにしてたんだもん、秘密営業」 「・・・もうその話題さ、止めようよ」 綾乃が初めて俺に見せた、明らかに不機嫌な反応だった。 「ごめん、下手に怒らせるつもりじゃなかったんだ・・・」 「何だか調子悪くて・・・ゴメンねっ」 決して本意ではない口調の謝罪。 俺はマットに横たわり、綾乃の正規のサービスを受けた。 俺自身をローションで擦りながら、どことなく機嫌を損ねた素振りを隠さない。 「必要、なくなったんだ?」 「・・・あまりいい言い方じゃなかったね。でも・・・」 「彼氏にバレたとか?」 綾乃はその言葉が耳に入った途端、顔を伏せた。 「実はさ、私・・・いるんだ。男が」 「彼氏かぁ」 綾乃には恋人がいる。 相手は自らが本職として勤める会社の上司だという。 随分年上の、妻子持ちである。 いわば、職場不倫。 いくら綾乃と楽しく過ごしても、時間が過ぎると相手は家庭に帰っていく。 彼が綾乃に微笑みかけても、その先には家庭への愛情がある。 対して彼女は人気の無いアパートへ帰るだけ。 分かっている筈なのに、湧き上がってくる寂しさと切なさ。 彼の無意識の「ずるさ」が、綾乃の女心を傷つけていた。 彼を男として愛する、一人の女として。 また平然と裏切られる家族、とりわけ妻の立場にたって。 またその裏切りに加担している事実として。 綾乃は手を止め、話してくれた。 この仕事を始めたのは、彼に対する「復讐」なのだと。 彼を心配させたかったから。 彼に心配されたかったから。 「彼って、この仕事を知っているの?」 俺の問いかけに、綾乃は首を横に振った。 「じゃ、復讐にはならないんじゃないの?」 「・・・」 綾乃は答えることができなかった。 「彼の事、愛しているんだ?」 「どうにもならない事、分かっているのに・・・ね」 「そうか・・・辛いよね。でも愛しているのは事実だもんね」 「・・・何で?」 綾乃は俺に問い掛けてきた。 「何で、平良さんはそんな言葉が言えるの?」 「だって、聡子ちゃんはこの仕事でも一生懸命じゃないか」 「・・・本名は止めて」 最初に覗きの個室で見た、綾乃の服を脱ぐ一連の仕草。 ただモタモタ服を脱いでいた訳ではない。 きちんと男の見る目を意識していた。 サービスを受けていて気付く、細やかな気配り。 綾乃は真面目な女なのだろう。 「一生懸命なんだね」 「やめて」 「・・・?」 「自分が、本当に壊れそうになるから・・・」 俺は綾乃の言葉に、それ以上余分な口を挟むのを止めた。 <以下次号> |
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