華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2007年11月03日(土) 欠けたる月の兎。 〜寂しいと…〜 |
「簡単さ。俺に対しても気遣って言ってるのが判るからさ」 本当に抱かれたいのは、俺じゃない。 俺であってはいけない。 この女が俺の向こうに見ているのは、旦那だ。 「平良さん、一体何者なの?」 「俺?しがない営業ですよ」 その日は何事もなく、前回と同じ場所で降ろした。 後日、改めてウサギから今回の非礼を謝りたい、との申し入れがあった。 ウサギを住処近くのスーパーで拾った俺は、彼女のお気に入りの喫茶店に向かった。 「ここの店ね、前から好きなの」 アンティークな小物が小憎い演出をする、自家焙煎の珈琲専門店。 ここで、俺はアメリカンを戴く。 ウサギは柔和な表情でウィンナーコーヒーをすする。 今回は前回までとは一転して、他愛も無い話ばかりだった。 家庭の話、友達の子どもの話、結婚前の武勇伝… 俺も努めて、目元を緩めてゆったりと話を聞く。 ウサギは、朗らかに、穏やかに話を続けた。 この女と過ごす、初めての穏やかな時間だった。 しかし、わざわざこんな時間をすごすために、俺を呼んだのか? 何か企んでいるのか? 今度は何を企てているのか? ウサギに対する、疑念を払拭できないでいる。 長針が2回転を超える間、話続けたウサギ。聞き続けた俺。 喫茶店を出て、車に乗り込んだ時。 ウサギが切り出した。 「この前は、気分を悪くさせてごめんね」 「いや、別にいいよ」 「でもね、嘘じゃないの…平良さんが忘れられない」 「俺の、何が?」 「…身体」 俯き、搾り出すようにそう答えた。 「…抱いてほしいの」 「約束は覚えてるよね?」 「援助、交際はしない」 「それで良いよね?」 ウサギは静かにうなづいた。 東名高速春日井インターの脇にある、地味な外見のホテルに入る。 ビジネスユースとラブホテルを足したような内容のホテルだった。 チェックインした後、ウサギは俺に抱きついて、唇をせがんだ。 俺が答えると、安堵したような表情で、俺の胸に顔をうずめた。 バスルーム前の脱衣場で、俺はウサギに絡みつく。 大きな鏡に映る大柄の俺と、小柄なウサギ。 背後から抱きつき、肉体を求める様は、まるで子兎に噛み付く猛獣だ。 違うのは、狙うのは子兎の肉ではなく、肌だ。 下着を剥ぎ取り、乳房を鷲掴む。 息を呑み、のけぞるウサギ。 その乳首に触れた途端、ウサギから快楽の吐息があふれ出る。 俺は指先でたっぷりとウサギの乳首をつまみ、軽くつぶすように転がす。 その度に吐息が、そして喘ぎがもれる。 腰が意味ありげにくねる。 そして、時折丸い大き目の尻が波打つ。 子宮の疼きがそのままウサギの下半身を悩ましげにひくつかせる。 「やだぁ、やぁ、こんな所じゃ…」 ウサギの戯言は、彼女自身の潤みを探れば判断できる。 俺は無視して、ウサギ自身に中指を差し込み、咥えさせた。 熱い粘液に満たされたウサギ自身の壁に、指の腹を押し付ける。 そのまま前後に動かすと、脱力したウサギが可愛い鳴き声を上げた。 ウサギが鳴くなんて、思えば滑稽な話だ。 俺は指を抜き取り、ウサギに見せた。 「見てみろよ、すごい濡れ方だ」 「いやぁ、私が淫乱みたいじゃん」 「そうだって言ってんだよ」 「いやぁ、意地悪!」 「愛液が白っぽいぜ…なぁ、もう欲しいんだろ?」 下品なのを承知で、ウサギの敏感な耳元に現実を囁く。 聞かなくても充分理解していたウサギ。 吐息交じりの俺の声に撫でられ、さらに高まる。 「お願い…入れてほしいのぉ、もう我慢できないぃ…」 ウサギのこの懇願が、俺のサディスティックな心に火を点ける。 「だめ」 「意地悪ぅ!」 「ゴムつけてないもん、だからダメ」 「あぁん、今すぐ付けてよぉ」 「ゴムはベッドにあるよ」 「取って来てぇ、お願いだからぁ」 「どうしようっかなぁ?」 焦らしに入ると、俺もつい人が悪くなる。 ウサギの懇願を徹底的に焦らしで切り返す。 俺は脱衣場にウサギを残して、部屋に帰ってきた。 すぐさまウサギは全裸のまま、俺に抱きついてきた。 「シャワーは?」 「いらない!抱いてぇ」 「俺もきっと汗臭いぞ」 「いいの…いいの!私を壊して!」 「いいのか、壊して?」 俺は聞き間違えていた。 壊して、ではなかった。 「こんな私を…私を殺してぇ」 そう言った途端、ウサギは泣き崩れた。 全てを中断し、俺はウサギにシーツを掛けた。 そのシーツを裸にきつく巻きつけて、その場に泣きじゃくった。 「…もう、もう嫌…何もかも嫌、死にたい、死にたいぃっ…」 鬱になった彼女を、愛する夫も実家ももてあましている。 自分の感情をコントロールできず、遂に誰も身近にいなくなる、 焦りと苦しみ。 ウサギは身内に見せられない苦しみを、俺の前で爆発させてしまった。 どれだけの時間が流れただろう。 ウサギは静かになり、落ち着きを取り戻した。 俺は何もかもが冷め、ベッドに寝転んでいた。 「帰ろうか?」 ウサギは何も答えなかった。 車での帰路。 無言の車内。 話題の無い中、ふと俺は以前からの疑問をぶつけてみた。 「何で、ウサギなんて源氏名にしたんだい?」 「…死んじゃうから、寂しいと」 「寂しかった、と?」 「死んじゃって、何もかもを無かったことにしたい」 だからウサギにしたの、と呟いた。 「お願いがあるの、聞いて…」 自宅前になり、ウサギは降りる前にそう俺に頼み事をしてきた。 「何を?」 「ここで、キスして…」 ウサギはそう言うと、俺の首筋に抱きつき、唇をせがんできた。 俺は静かに、ウサギに唇を静かに重ねた。 静かな、フレンチキス。 ふっと、頬が緩んだウサギ。 その表情のまま、車から降りていった。 ウサギは寂しいと死んじゃう… どこかのテレビドラマで聞いた台詞が脳裏にリフレインする。 寂しいんだろうな、あの女も… でも寂しいんだよ、本当は俺も… |
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