ローカル線を乗り継いで辿り着いた駅は想像した以上に静かな場所で、駅舎は雨よけの屋根があるだけ。列車の乗員がその駅で降りる人間の切符を受け取ってから発車するような感じの無人駅だった。私はといえば、明らかに場違いな所に間違った服装でやってきた、浮いた旅行者だったろう。目的地はその駅から徒歩で3キロ余り歩いた先にあるとある戦国大名の居城である。といってもそこは日本でも有数の山城なので、麓から山頂まで500m余りある。スカしたジャケットと多少ダボついたスラックスで訪れるような場所ではない(笑)。要は甘く見ていたわけだが、その山を見上げて、己の小ささに絶句したものだ。 ただそれが目的達成のモチベーションに全く影響を及ぼさなかったのは、私にとってこの地が自分の理想の場所だと訪れる前から強く感じていたからだ。端的に言えば、私は死に場所が欲しかった。そういうものを求めて実際に行動するようなこの時期が私の最も停滞していた年月であり、奇しくもそれは仲間たちの関係においても同様で、私に限らず人間の行き来の最も薄い時間が始まったようだった。
沈んだ気持ちとは裏腹に、なんだかんだ史跡探訪を楽しんでいる自分がいた(笑)。周囲はとてものどかな平野で農家が多く、大きな人工物といえば高速道路くらいで視界をさえぎるものが極めて少ない。なので前もって調べ上げた本城と支城の位置関係や街道の機能性なんかを考えながら歩くのはかなり面白いものだったように記憶している。
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